「森」と「音」を通じて参加者のものの捉え方の拡張と会場音楽の作成を目的としたワークショップ

長野県伊那市で行われたワークショップ「森を鳴らす。」の様子。

東京で行う体験展示【赤松之森】の会場音楽を音楽家の立石剛さんに監修して頂きました。
会場音楽の制作も体験にしたいという想いからこのワークショップを開催しました。

今年3月にも会場音楽とワークショップで関わらせていただいた展示会「赤松乃森」が11月に東京でも行われることになり、今回もその会場音楽をワークショップ形式で作りたいということから、「森」と「音」を通じて参加者のものの捉え方の拡張と会場音楽の作成を目的としたワークショップを目指しました。

ワークショップのタイトル「森を鳴らす。」と決まったとき、 「誰もいない森の中で木が倒れたら音がするのか」というある哲学を思い出しました。 現象が「音」になるとき物理的な関わりと、受信器としての感性が必要になってきます。 参加者が森の中に入って「聴く」ことで、それぞれの中で森が鳴りはじめます。 当日は雨が降る森の中で参加者の皆さんと「音」と向き合う時間を共有することができました。 最初のワークでは、耳をひらいて聴くことの感度を高めていきました。 人工物のある公園を一周して、森との境界となる動物避けのフェンス扉を開けて森の中へと入っていきました。

参加者の一人が「上からも音が聴こえてきた」と言った言葉で森という木々に囲まれた「空間」をより感じることができた気がしました。 しばらく観察的に音に意識を向けてもらい、聴くことへの解像度を上げていきました。 次に、音を「判断せず」にぼんやりと全体を聴くという方法を試してもらいました。 これは非常に難しいのですが、自分が音そのものになるような感覚で、音で行う瞑想やヨガに近いものだと考えています。 森の奥へ進むと、5つのワイングラスがセッティングしてあり、中央には木の箱が置かれています。 続いてのワークではこれらを使って実際に音を鳴らしてみました。 当然、音をだすには聴く必要があります。 声を発する際にもその音を聴きながら細かいニュアンスを調整しているように、聴くという感度によって出る音は変わってくるため最初のワークが重要になってくると考えました。

グラスハープとは水を入れたワイングラスの縁を指で滑らせることで音を発するもので、僕のワークショップではなるべく楽器ではないものを使いたいと考えています。 グラスハープは知っているが実際に鳴らしたことのない人が大半でした。 グラスハープの良いところは簡単なコツを掴めば誰にでもすぐに綺麗な音が出せることで、数回練習して皆音が出せるようになりました。 いくつかのルールを決めて実際に録音していきました。

・まわりの音をよく聴き、なるべく一定の音を意識する ・音を絶やさない(5つ同時には鳴らないように音を引くことも意識する) ・鳴らしたら別のワイングラスへ移動する ・移動の際に中央の木箱に、落ちている木の実や枝などを落としていく ・声は出さない(出したい時はヒソヒソ声) まわりの音や動きを意識しながら、約7分間の無編集録音が無事に終わりました。

雨の音や参加者の少女の自由な発想の音も加わり、思いがけない面白い音が録音されていました。 今回、録音された音はそのまま11月の展示の際の会場音楽として流されます。 6つのスピーカーを会場に点在させ、森で行われたワークショップの音を会場内に再現できたらと考えています。 今回もとても素晴らしい作品になりました。 参加してくれた皆様と共に有意義な時間を過ごすことができました。 当日は足元の悪い中ありがとうございました。


音楽家/現代アーティスト 立石 剛